イタリア:糖原病の子どもたちの就学案内

イタリア糖原病協会HP[に掲載されていた資料を精密画作家の彦坂ゆねさんが翻訳してくれました。実は翻訳が完成した後、同協会のHPには新たな案内が掲載されていたのですが、それはこれからの翻訳になります。




   ☆学校生活に参加するためのステップ


 学校における体験は、その生活状況を問わず、すべての子どもたちに約束された憲法上の権利です(共和国憲法3/4/34条)。
 これはあまり知られていない稀な病気である『糖原病』という特有の側面に留意して、子どもたちの権利を保証するためにご家族や施設が協力して取るべき措置についての小さな手引きになっています。

   ☆まずはニーズの確認から

子どもたちに必要なものはなんでしょう?


・食事介助(肝型・筋型)
              
・看護(肝型・筋型)    
       
・間食のコントロール(肝型)
・低血糖の初期症状チェック(肝型)
・血糖値測定(肝型)            
・血糖値調整薬の投与(肝型)
・個人衛生の補助(肝型・筋型)
・運動と/やレクリエーション活動の支援(肝型・筋型)
・校外学習、 修学旅行の際のクラス内における支援(肝型・筋型)
・移動補助(筋型)   
・人間関係の発展のための支援(肝型・筋型)
・家族との持続的な関係
注:上記のニーズは、すべてのタイプの糖原病患者を考慮したものであり、各自が自分の子どもに適したものを特定することになります。


    ☆これらのニーズにどう応えていくか?


法令
 1992年法律第104号(第12条)   

 2017年4月3日暫定措置令第66号

  第1条, 2項「この法令は、学校及び社会的包摂の過程において、家族と関連団体の参加を促進するものです」


家族がしなければならないこと
1.糖原病の診断を行った診断・治療センター で作成された書類を持って、保険医(ホームドクター)のところに向かいます。
 2.保険医がデータ通信サービスを介し、INPS(全国社会保障機構)に対し障害の認定申請手続き(有料認証)を行います。
 3.INPS委員会は、1992年法律第104号の第3条第3項に従い、障害者の認定申請について会議を開き審議します。その後、委員会が報告書を作成してご家族にお送りし、肯定的または否定的な意見を表明します。認定が認められた場合には、子どもは委員会が定めた障害の程度に基づく同行手当、および/または、学校やリハビリテーションセンターに通うことを条件に、18歳の誕生日まで有効な「出席手当」と呼ばれる月々の経済的支援を受けることができます(注:これは、保育園への通園から可能なように法律で規定されています)。
 認定が認められなった場合には、評価報告書に規定されているように、家族は不服申し立てをする時間があります。この場合、現地にいる支援者に後援してもらえます。

【注意!】
この書類だけでは、学校生活への参加を保証するのに十分ではありません。


では、どうしましょう?


1. 病患者の家族は再びホームドクターのもとに戻り、「赤の処方箋」 を使い、小児神経精神疾患専門医の診察を受けられるよう依頼します。

2. 専門医が、臨床報告書と機能診断書を作成します。
3.これらの書類を持って、家族は新たな委員会に申請を行う必要があります。所属する地域によって名称は異なります(例:ロンバルディア州:「障害状態評価委員会」、プーリア州:「DSM 地域保健所 - U.O.C. 青少年神経精神科」、カンパーニャ州:「UVI 統合評価単位」など)。
4.これらの新委員会が「評価報告書」を作成し、必要に応じて支援や教育支援、看護支援を要請する権利を患者に与えます。
5. この2つの書類を、入学時に学校に提出する必要があります。
[1] 「赤い縁取りのある処方箋」のことで、NHS(国民保健サービス)に所属する一般開業医などが出すNHSが負担する薬物および/または医療保健サービスの処方箋のこと。

          入学
家族は
・ 自分達の居住地域の教育機関のホームページを調べます。
・事務受付の時間帯をメモしておきます。
・「Piano Triennale dell'Offerta Formativa (三ヵ年教育計画/略称:PTOF)」と呼ばれる学校法人の独自計画とそこに記載されている組織図を確認します(この書類はMIURのウェブサイト「Scuola in chiaro」でも閲覧可能です)。
・組織の中で、次のような専門性のある人物に注目しましょう:
学校長および受け入れ機関の担当教師。後者が不在の場合はBES(特別教育ニーズ)担当者、または投薬担当教師。
・そして、両方の人物にアポイントメントを取るよう要請します。
・ミーティングでは、希少疾病に関するすべての情報を提供し、書類を手渡します(事務職がコピーを取り、手渡されたものを記録した上で、原本は家族に返却されます)。
- 緊急時の管理に関する書類(「Carta Emergenza(緊急カード)」もしくは参照病院が発行する書簡)を事務に提出します。
・申請書に必要事項を記入し、認証情報保護を重視する項目には必ず「×(日本で言うチェック印)」を入れます:調査・診断・社会的後見調査が残っている場合は、登録用紙にその旨を記入します。
・中等教育機関の場合、保護者は9月にクラス管理者との面談を求め、管理者はクラス全体の協議会に報告し、子どものニーズをより具体的に把握します。

 
 
学校側は 
・必要書類を取得します。
・その生徒を受け入れるのに最も適したセクションやクラスを見つけます。
・教育機関担当/BES/投薬担当教師は、受け入れ計画を明確化するための会議を開きます(2017年暫定措置令第 66号第5条 第2項bに準拠)。ここでは、関係者全員(学校長、受け入れ機関の責任者、自治体および健康保護局(ATS)[1](旧ASL)[2]代表、家族、イタリア糖原病協会代表(事前に連絡))が取るべき行動を宣言し、上記法令を具体的に実施する必要があります。
・指定スタッフ(州の支援教員および/または市町村の教育助手、AEC)を利用することで、週あたりの特定総時間数を保証する必要があります。
・病態の管理に関連するすべての要求(例:食事療法や介護スタッフの要求)を支援するために、ソーシャルワーカーに連絡する必要があります。
・医薬品の投与に関する現行の規制の適用状況を確認しなければなりません:学校環境および学校時間内における薬物投与に関する統合経路についての「Protocollo di Intesa tra MIUR [3]e Ufficio Scolastico Regionale(MIUR-州学校教育局間の覚書)」。さらに、学校は生徒の治療に関する活動のために、本人のプライバシーと尊厳を尊重した適切な場所を指定し、救命薬および血糖測定機の適切な保管を保証しなければなりません。すなわち、薬物投与に責任を持つ人の名前を家族に知らせること、糖原病に応じて異なる応急処置ができるようにすること(秘書課で渡される緊急時の対応に関する文書を参照)、118番 の救急隊に連絡し家族に連絡すること、が必要です。
・関連するATSを通じて、あるいはイタリア糖原病協会(AIG)に連絡して、すべての教員と非教員のための訓練コースを組織することが望ましいと思われます。
[1] Agenzia di Tutela della Salute,
[2] 以前は地域保健所(ASL:Aziende Sanitarie Locali)であった。
[3] MIUR:Ministero dell’Istruzione, dell’Università e della Ricerca(大学研究省)のこと。現在はHPを見ると2022年に成立した政権によってMiur: Ministero dell'Istruzione e del Merito(教育能力省)という名称に変更されている。
 
               イタリア糖原病協会(AIG)
 親が学校に連絡し、そしてもし適切な対応が得られない場合はイタリア糖原病協会に助けを求めましょう。「ヴォーチェ・アミーカ(Voce Amica)」[1]を通じて、または info@aig-aig.it までメールを送ってください。

協会は

・受け入れ計画の実施過程に積極的に参加し、家族を支援できるようにします:学校長や受け入れ担当者と連絡を取ります。
・地方自治体(ソーシャルワーカー)と連絡します。
・このような最初の接触を通じて、病態とその管理についての情報を提供します。
・個別受け入れ計画の企画を目的とした「協議テーブル」[2]への同席を求めます(暫定措置令2017年第66号、第9条事前合意に基づく)。
・A.T.S.を通しての訓練が行われない場合、A.I.G.は、教育および非教育のすべてのスタッフを対象に、低血糖の症状を把握し、食事療法の重要性と守るべきスケジュールを強調する、血糖コントロールと管理に関する病理学の特別訓練コースを組織することが可能です。
・糖原病患者がいるクラスやセクションの全生徒が参加できるような情報資料(本、短編小説、絵、その他の情報資料)を学校に提供します。
 
注)この手引きイタリア糖原病協会の内部資料です[3]。
 
[1] イタリア糖原病協会の旧版HPにあるナビゲーション欄にあった連絡蘭のこと。直訳すると「友人の声」になる。糖原病患者やその家族に相談先を知らせていた。
[2] 原語は il tavolo della concertazione で、行政と関係機関・団体との事前の相談・協議の組織のこと。
[3] イタリア糖原病協会にはこの手引きを翻訳し紹介することの了解を得ている。

嶺井正也の教育情報

日本やイタリア、国際機関の公教育政策に関するデータ、資料などを紹介する。インクルーシブ教育、公立学校選択制、OECDのPISA、教育インターナショナルなどがトピックになる

0コメント

  • 1000 / 1000