「第164回国会 参議院 文教科学委員会 第9号 平成18年4月20日」速記録 https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=116415104X0092006042

*以下、話し言葉について冗長になっている点は修正して掲載○

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委員長(中島啓雄君) ただいまから文教科学委員会を開会いたします。 

学校教育法等の一部を改正する法律案を議題といたします。

 本日は、本案の審査のため、参考人として帝京大学文学部教授大南英明君、専修大学経営学部教授嶺井正也君、全国特別支援教育推進連盟理事長三浦和君及び日本発達障害ネットワーク代表・全国LD親の会会長山岡修君の四名の方に御出席をいただいております。  この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。

 本日は、御多用中のところ、本委員会に御出席いただき、誠にありがとうございます。  参考人の皆様には忌憚のない御意見をお述べいただきまして、本案の審査の参考にさせていただきたいと存じますので、どうぞよろしくお願いを申し上げます。

  本日の会議の進め方でございますが、まず大南参考人、嶺井参考人、三浦参考人、山岡参考人の順でお一人二十分程度で御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑にお答えいただきたいと存じます。  なお、御発言は、意見の陳述、質疑及び答弁のいずれも着席のままで結構でございます。

 <中略>

 ○参考人(嶺井正也君) 御紹介いただきました専修大学の嶺井と申します。  私は、障害児を普通学校へ全国連絡会という保護者や当事者の団体と一緒に活動をしております。その関係で、統合教育やインクルーシブ教育が進んでおりますイタリアの事例などをこの間研究してまいりました。大学では教職課程を担当しております。  それでは、私の意見をこれからパワーポイントを使って紹介させていただきます。(資料映写)

  今、大南先生の方からは日本のこれまでの障害のある子供たちに対する教育の歴史を踏まえたお話がありましたけれども、私の方は少し視野を広げまして、国際的な流れがどうなっているのかというところからお話をさせていただきたい。

  なお、今日、私、呼んでいただきまして有り難いんですが、かなり審議が進んだ段階で呼んでいただくよりも、もう少し前に、当事者の方たちも含めて呼んでいただくと、より深い審議になったのかなと思っておりますので、御参考までに申し上げておきます。  私の今回の法改正への基本的な立場なんですが、私は、この間ずっと、ともに生き、ともに学び、ともに育つという、これは日本の障害のある子供たちの教育の中で培われてきた言葉なんですけれども、この立場に立って、障害のある子供たちだけではなくて、日本の子供たちの教育全体を考えてきました。そのことは国際的には私はインクルーシブ教育というふうに表現されてきたのではないかというふうに考えております。この点は、十二日の本会議で神本議員が質問されたことに対しまして外務大臣が答弁をされた答えの中にも、国際的にはインクルーシブな教育だというお話がございました。それはお手元の資料に掲載しておりましたので、ごらんいただきたい。  私はこの立場に立って今回の法改正についての意見を述べさせていただきます。

 インクルーシブ教育といいますのは、御存じのように、一九九四年にサラマンカ、スペインの古い町でございますが、そこでユネスコとスペイン政府が開きました特別なニーズ教育に関します世界会議で採択をされたものでございます。そこのポイントは、非常に簡潔に宣言にも書かれておりますけれども、その宣言を実施するための行動計画、フレームワーク、つまり各国政府にこういう点を踏まえてやれば実現するんだよというようなことが具体的に書いてあります。私はそれを見ましたときに、ああ、非常に優れたものだなというふうに思いました。日本からも六名ほどの方が参加をされて採択に、採決にかかわっていらっしゃいます。

  そこの基本的な立場は、特別な教育ニーズのある子供たちも基本的には通常の、レギュラーと言っていますが、インクルーシブな学校にアクセスすべきであると宣言をしております。なぜそうなのかといいますと、できるだけ早いうちから障害のある子供とない子供が一緒に育ち合う、そういうことがその後の共生社会、インクルーシブな社会を実現していく上に不可欠なんだと、そういうことを提起したものでございます。

 この提起につきまして、いろいろな評価があるかと思いますが、私が知っておりますのはイギリスの、先ほど私が日本の、障害児を普通学校へ全国連絡会という会があることを申し上げましたけれども、それと大体同じようなことをやっておりますイギリスのCSIEの評価をとりあげます。この団体が出しましたパンフレット(「障害児とともに学ぶ」ということでブックレットで公刊)ではサラマンカ宣言を高く評価し、今後の障害のある子供たちの教育の原則を規定したものだというふうに主張しています。

  そのCSIEは、インクルーシブ教育につきましてはこういうふうに提起しています。障害や学習困難のある子供とない子供とがともに適切な支援網を得て通常の幼稚園、学校、カレッジ、大学で学ぶこと、これがインクルーシブ教育であると。このCSIEは、ホームページで世界の動向等についても詳しく報告を、資料等を掲載しておりますが、その他提言も出しております。その一つに「インクルージョンを求める十の理由」があり、そこで教育インクルージョンの定義、なぜインクルージョンが必要かということを説明しております。その資料につきましては、お手元の資料の二枚目辺りに列挙しておりますので、ごらんをいただきたい。

  さて、国際的に目を向けますと、今、御存じのように国連では障害のある人の権利に関する国際条約が議論をされておりまして、昨年の十月には議長草案が示されております。その資料につきましては、DPIのホームページにある仮訳を掲載さしていただいております。  そこのところをかいつまんで申し上げますと、障害のある人たちの教育は一般教育(ジェネラルエデュケーション)から排除されてはならない、そのためにはインクルーシブ教育へのアクセスが必要なんだと。その一般教育のなかで子供たちのニーズに合った合理的な配慮が必要だと書いています。ニーズという言葉よりも、国連では合理的な配慮という言葉を使うようになってきているようでありますが、そういう配慮をした上で、やむにやまれぬ理由があった場合に、どうしようもない場合には別の代替的な支援、例えば一般教育とは違う教育の場も考えられるとするものです。基本は一緒の教育、その基本、一緒の教育をやるには適切な支援網と合理的な配慮が必要であると提起をしております。

  さて、今回の改正案の基になりました、先ほど大南先生もおっしゃいました中央教育審議会の答申でありますが、私は評価できる部分と、出来ない部分あるいは疑問に思っている部分がございました。  評価できる点でございますが、一つは、先ほど大南先生もおっしゃいましたように、特殊教育、これは特別の場で行う教育であったものを特別支援教育へと転換をするんだと、一人一人の子供たちのニーズに合った教育へと変えていくんだとする点です。ただ、具体的な中身を見ますと、「えっ?」と思うところがないわけではございません。その点についてはまた後で申し述べることにします。

 それから、通常学級で今、文部科学省の調査でも分かるように、就学認定を受けた子供たちだけではなくて、多くの障害のある子供たちが学んでおります。そういう子供たちを含めた特別なニーズのある子供たちに対する教育支援も視野に入ってきているのかなと、その点は評価したい。

  それから、学籍を通常学級へ一本化し、そして特別支援教室という固定的な学級ではない手だてを考える、この点も私は評価をしております。これも先ほど大南先生がおっしゃったところでございます。  そして、特殊教育諸学校の総合化について、です。

  しかし、疑問点ももちろんございます。特別支援教育は従来の特殊教育の継承、発展というふうにおっしゃっているんですけれども、場からニーズへの転換というのは私は大きな転換だというふうに思います。そこだと、単なる継承と発展でいいのかなというのが一つの疑問です。

  二つ目。通常学級で学ぶ子供への支援は視野に入ってきていますが、どうも答申を見ますと具体性がちょっと足りない。特に、そういう子供たちを引き受ける教職員への条件整備といったようなところにも踏み込みが足りないということで疑問符を付けております。

  また、特別支援学校での教員免許を全員持たせるということですが、私は、従来、特殊教育諸学校は専門性をうたいながら半数以上が教員免許を持たなかったという歴史を考えますと、この点は非常に大きな進歩だと評価していますが、特別支援教育は通常の学校や通常の学級での教育も視野に入ってくるわけですから、通常の学校や学級で教員をしている先生たちにも是非特別支援教育についての知識やスキルを身に付けなければいけないのではないかと。そういう意味では、教員免許が特別学校だけになってしまったということはやっぱり問題があるんではないか。中教審の答申の中でも、たしか特別支援教育免許状というのが議論された経緯があるのではないでしょうか。その点が突っ込みが足りなかった。

 それから、就学指導に関する点が一番今回の法改正の中では焦点になってきます。できるだけ多くの子供たちが通常の学級で学ぶようなことに世界的に見ても日本はなってきていますが、ただしそれは、就学を本当に希望したところに行けるようになっているかというとそうではなくて、いろんな状況の中で保護者や当事者の意見が進まないままに措置が行われていると。そういう中での制度的な問題が残されていると思っております。この点については、答申は今後検討するとあるので、今後の検討に是非早急に手を付けていただきたい。

  疑問点の続きは、もうお手元に私の方でこのパワーポイントにありますものは打ち出しておりますので、ごらん下さい。これは重複しておりますので省きます。

 さて、今回の法改正でございますが、いただきました資料等を見ますと、どうも中教審答申よりは後退しているんではないでしょうか。先ほど申しましたように、私は評価できる部分と疑問点があると申しましたけれども、評価していたところが消えてしまって、しかも疑問点は残ったままという点で、非常に後退していると考えております。

  その後退点の第一点でありますが、先ほど大南先生も出されました資料では、「LD・ADHD・高機能自閉症等」というふうに「等」がそこに付いていたんですが、いただきました資料の、参議院調査室の資料の中では、十六ページに「LD児等、発達障害児への通級指導」と書いてありまして、どうも通常学級にいる子供たちとして発達障害のある子供たちだけを対象にしているようなニュアンスになっております。LDの子供たちに対する特別な配慮というのはもちろん必要ですが、私はそこから漏れてしまう傾向にある子供たちをどうしてくれるんだというところを是非強調したい。中教審答申では発達障害以外の子供たちにも目配りがなされていたと思っているんですが、それが後退して、発達障害児だけになってしまっているような印象があります。そこを是非議論をしていただきたい。

 二点目ですが、やはり特別支援教室であったのが特別支援学級へというふうに固定になったことでございます。これは恐らく財政的な問題を考えてということでしょうが、現在も通級指導等では加配等でやっているわけですから、その点での十全な拡充があれば固定的な学級にする必要はなかったのではないか。この点は、日本特殊教育学会もかつて、学籍を一本化して、そして必要に応じて必要な手だてを受けられるような教室の方が望ましいという提言をしています。中教審でもその点での議論があったのに、そこが踏み込めなかったのは残念でなりません。

 それから、そういうものを踏まえまして、今後の審議への注文でございます。

  一つは、通常学級で学んでおります認定就学者を含む身体障害、知的障害のある子供のニーズに応じて必要な学習環境、支援、これができるように是非していただきたい。現在は盲・聾・養護学校等だけの就学奨励しかございませんが、そういう就学奨励の在り方もこの際見直していただきたい。  二点目ですが、就学措置に関しまして、この間もずっと学校保健法や学校教育法施行令が保護者や当人たちの意思を無視して就学を措置するための制度として機能してきた経緯がございますので、この点も是非具体的に検討していただきたい。

  三点目ですが、特別支援学校が新たに地域の支援センターになるという役割を担っておりますが、その条文に関しまして見ますと、小学校などの要請に応じて教育に関し必要な援助又は支援となっております。これは学校の要請とは書いてありますが当人や保護者たちが本当に望んでそういう支援を必要とするかどうかとについては触れていない。これは正に当事者性の問題であります。そこのところ、是非、当事者性が通るような形での議論をしていただきたい

 四点目は、もう先ほど申し上げましたように、本来であればすべての教員が障害のある子供たちの教育について学ぶべきであります。今後、是非、教育職員免許法等の改正に関しましても、すべての教員が学べるような内容にしていただきたい。

 五番目でございますが、先ほど紹介いたしましたように、障害者の権利条約が審議をされております。審議をされた暁には恐らく日本では批准という状況になっています。批准に際しまして、権利条約の方はインクルーシブ教育を原則として掲げているわけですから、当然国内法との整合性をどう付けるかということが大きな課題になってまいります。そういう意味では、是非今後、必要に応じて法を見直すというような、附則でありますとか附帯決議でありますとか、是非そういう措置をとっていただかないと柔軟に対応できないのではないかというふうに考えております。

  参考までに、私が見てまいりましたイタリアの教育の例について幾つかの文献をそこに挙げておきました。実際に資料に紹介しましたのは、特殊教育総合研究所の事例を、論文を資料に載せてございます。私とちょっと意見の違うところがありますけれども、イタリアでは、通常学級に在籍し、必要に応じてその子のニーズに合った手だてを特別の場でやっているというのが一般的であるというふうに紹介をされております。

 最後になりが、今回の法改正で、ちまたでは今回の特別支援教育に関する法改正では、いわゆる発達障害と言われる子供たちだけが必要な手だてを受けられて、そうでない子供たちが通常学級で学んでいる場合には無視されてしまいそうな傾向があると心配をしている向きが多々ございます。是非そういうことがないようにしていただきたいす。

  私は今、特に障害のある子供たちの教育ということで話をしてまいりましたけれども、実は障害がある子供とない子供が育つということは、障害のない子供たちにとってもその人間性や人間的な関係性をはぐくむ上で必要不可欠なことであります。障害のある子供たちの教育の問題は実は障害のない子供たちの教育の問題でもありますし、日本の教育の全体の問題であります。ひいては、それは、今日本が目指しております共生社会の基礎をつくるものだと考えておりますので、是非そういう観点で審議をしていただきたい。 

 「参考までに その二」というのは、特に文部科学省が日本では多くの子供たちが既にもう普通学校や普通学級で学んでいるんだよというふうによくいわれますが、であれば、それを原則として認めて必要な手だてをするという方向転換をしていただければいいのではないか。

  最後は急ぎ足になりましたが、私の意見とさせていただきます。 

嶺井正也の教育情報

日本やイタリア、国際機関の公教育政策に関するデータ、資料などを紹介する。インクルーシブ教育、公立学校選択制、OECDのPISA、教育インターナショナルなどがトピックになる

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