1975年ファルクッチ委員会報告書 その2

2 統合教育のための学校モデル

 a)学校の定数:だれをも排除しないように、500人を超えないこと(母親学校は除く)。 

b)学級定数:1学級は平均して15~20人以内で構成する。ハンディキャップのある子どもの数は学級担任と専門家とで構成するチームが決めることとする。 ハンディキャップ者とは次のように理解される:学習や人間関係の面で困難さをもたらす可能性のある、誕生前―誕生前後―誕生後において生じる病理的あるいは外傷的身体的、知的、感覚的機能不全という障害を示すもの。

 c) 時間割:全日制(序文で触れている。)

 d) 教育課程(Progetto educativo):学校の新しいあり方には、教員と学級を一体と考えるこれまでの概念を克服し、教員同士の協働によって、専門家とともに教育課程の計画、実施、検証を一貫して行うという、生徒集団に対する広範な責任が求められる。個々の生徒に対しては、それぞれに異なる時間帯を任される教員に法的な責任がある。二元的体制にならないように、小学校の場合には3学級につき教員1人(正規の専門教員)が配置される。全日制学校になった場合には、一日につき各学級に2名の教員を配置しなければならず、したがって3学級だと8人の教員が必要となる。

  また重いハンディキャップの生徒たちには補習指導を行う専門教員の必要性も考えておかなければならない。その場合には教員と生徒との比率を1対1から1対3までの間で柔軟に設定することになろう。

 さらに中度のハンディキャップ児に対するリハビリテーション的でもあり、専門的でもあるような対応(関与)を行う専門教員も配置されるべきである。この場合、教員と生徒との関係を柔軟にしてその割合が1対4とか1対5にすることが可能だし、また巡回サービスの機会を設けることも可能となる。当然、こうした対応は、少なくとも、ソーシャルワーカー、心理士、専門指導員(pedagogista specializzato)、さらに、個々の処置(診断、治療、検査)を担当するリハビリテーション技術者や医療関係者も入ったメンバーで構成される職員チームが存在する学校でこそ行われるものである。 こうしたより組織だった学校生活こそが、生徒の成長や社会化を促しながら、困難を予防し、それが生じた時の適切な対応を可能とするのである。一連の活動の組織化や運営の方法は、状況、選択する活動形態、個々の生徒や集団のニーズなどに応じてそれぞれに異なるものとなる。

  これらすべては、段階的であって、柔軟な方法で人間関係を調整することになり、したがって困難のある生徒にとって特に有効である。

 e) 教職員(Oeratpri scolastici) 

1.  教員(Docenti): -学校の新しいあり方を作りだす可能性は教員の養成と永続的な研修にかかわっている。教員は伝統的な授業のやり方を見直して、より内容豊かものにするために導入されるべき新しい手段を知り、使用しなければならない。

 学校の機能が十分に発揮されるには教育的関係の継続性を基本目標としなければならず、そのためには学校に地位の安定している正規教員が配置されるべきである。こうした安定性はどんな場合にも望ましいものであり、本委員会は、障害のある生徒がいる学校では、安定性こそがより確実で、決定的な要件であることを強調せざるを得ない。教員と生徒との対話の合理的継続性を断ち切ってはならないからである。したがって、本委員会としては、次の1975/76学年度にはいってすぐに教育省が正規教員配置を確実に確保するために、その異動や臨時任用の方法を検討する必要性について考えるように促したい。

 教員、教務主任(direttori didattici)、校長(presidi)の継続的な研修は学校全体の政策の鍵であり、教員の役割行使にとっての基本条件であり、確かな科学的理論的土台ばかりではなく、教育方法の実践の継続的省察の条件である。 教員研修は、たとえば学校において、また学校を通じて、主として「自分の活動分野」について行われなければならない。 教育課程を決める時に必要な調整機能を考えれば、学校管理者の研修には特別の注意が払われなければならない。

 教員の実験的試みや文化・専門的研修にかかわる州調査機関において、委任命令第10条の最終項に基づき、多様な学校段階に相応する部署が、子どもの精神構造の障害(distrubi)に関連した心理・教育的な課題や授業にかかわる問題を深く検討するために一体となって活動する必要が大いにある。

2.  専門家(Specialisti):生徒一人ひとりの可能性を十分に発達させるためには、学校関係者が生徒が生活する環境の心理的側面とそれらの関係性とを有機的につなぐビジョンを持つ、その結果、学校がよくなっていく必要がある。教員の活動と専門的な能力のある他の職員との補完的協力関係が不可欠である。こうした専門家の協力は学校発展についての次のような二つの計画によって実現されるべきである。

2-1  認識や質的に充実した社会化の経験を通じて教育することを目的とする、共通性のある、豊かで、組織だった、柔軟さのある学校生活の促進

2-2  ハンディキャップのある生徒の学校への受け入れにかかわる問題の解決 非常に重要なことは、すべての管理者、教員、専門家が示された目的達成のために、そして、あいまいで、偏った働き方で彼らの貢献が挫折しないために必要と思われるすべての介入のためにチームとして働くことである。

  したがって、共通の教育課程の編成と実施にとって必要な学際的活動を可能にするには、さまざまな職員間で言語、展望、目的についての共通基準を調査し、明らかにし必要がある。

 こうしたことはハンディキャップのある生徒が入ってくる学級にとってはとりわけ必要である。共通の活動に参加するため特別な措置を必要とする個々の障害児についての配慮も行いながら、(専門家人数など)利用可能な資源についての現実的な見方に立って、こうした学級のニーズに対応する専門家の協働が優先されるべきである。

 なんらかの特別の治療のために学校が外部機関(医療・心理・教育センター、精神衛生センター、リハビリテーション治療所、その他学区内のあらゆる機関)を利用できるようにしなければならない。この点も指摘しておく。 本委員会は、したがって、専門家と学校との法的・行政的関係性に関する問題について検討したし、必要な時に地域の保健所に配置される専門家を利用するために、最善の解決方法を見出さなければならないとの意見を示した。

 一時的で措置ではあるが、本委員会は、申し合わせによって、所定の通達に示した規則にある基準にもとづき、公立の機関と私立の機関がともに利用できる専門家を雇用する必要性について同意した。専門家としてソーシャル・ワーカー、心理士、専門指導者が考えられる。また、個々の学級での状況を見守るリハビリテーション技術者や治療専門家も想定される。

 f) 校舎の構造、設備、個別支援:新しい学校の建物のための適切な規制を明らかにすることに加えて、モーターの問題が何であれ、運動機能に困難さのある生徒を含むすべての生徒がアクセスできる建物問題の解決策(暫定的な手段も含む)を示す必要がある。  身体的自立ができていないため特別支援が必要な子ども数に比例した数の補助員が配置される必要がある。 1つは、母親学校に配置される補助スタッフについて言及ができるが、しかし、その場合にはその任務を明確にする必要がある)。送迎サービス(短距離送迎、船の乗降援助など)と給食サービス(困難さのある幼児への補助)について特に留意しなければならない。

  これらのすべての条件、サービス、施設は、ハンディキャップ者の学校への積極的な統合を可能にする。 

3 実施戦略 

  こうした新たな学校というのはそれぞれの地域で徐々にしか普及できないことを考えれば、本委員会は、それぞれの学区で少なくとも1校、全日制で機能性の高い学校が存在するようにしたい。その学校の構造は上述した教育目的に沿って、地域内のすべての生徒を統合するようになっているものである。

  移行段階では、子どもたちは、権限のある地域の学校といえども自分たちの発達を十分に促す段階にあるとは考えてはいない。というのも、ハンディキャップ者の人数が多すぎてしまうと万人のための学校の本来的な在り方が変質してしまわざるをえないからである。

 この学校は、新しいタイプの特別または分離された学校として構成されるべきではなく、先進的実践が行えるように学校制度を再構築することを全体的なプロセスの最終目的とした、すべての普通学校のモデルでなければならない。

  公共事業対象地域であるだけでなくさまざまな地域および環境の現実の最新の評価を確実にするのに適切している地区(distretto)こそが革新的プロセスの開始に有効かつ現実的な次元と考えられるが、しかし、とりわけ、地区というのはこのプロセスが直接的で責任ある社会諸集団の参加から生まれる政治的動機を伴って具体的に開始できる場所である。 この提案に関して、本委員会は、設置される保健機関及び地域社会保障機関が学区(distretto scolastica)の範囲と一致するような方法をとるべきだと考えている。

 これにより、各州の法令によって規定されるすべての仕組みやサービスが調整された設立、つまり、公的サービスが不十分であることが判明したユーザーのための専門性の高いサービスを切れ目なく、豊かに提供をする仕組みの維持または確立が可能になる。 本委員会は、学区協議会に割り当てられたプログラム作成の権限は、ハンディキャップ者を統合する目的で、また採用すべき解決策が厳密で事前構成された計画策略のリスクから除外されることを確実にするために最大限に活用されるべきだと考えている。

 3.1 教育委員会の社会心理教育サービスセンター  

 教育委員会に設置することが提案されている「社会心理教育サービス」は、教育委員会または教育委員会の委任を受けた者が直接の責任を有する。委任者は社会心理教育サービスの長期経験のある教員が望ましく、委任を受けた場合には授業の任務を免除されなければならない。

  このセンターは、社会心理教育サービスを提供するために県の学校協議会が作成するプログラムの提案と目標を評価しなければならない。最も適切な運用選択を保証するためには、学校運営者(教師および専門家)の経験と協力を最も適切な形で利用するとともに、関連する作業ツールとその組織を準備する必要がある。

  センター自体も、協定内容とその適用の統制に関して権限を有するべきである。

  協定に関しては、本委員会は給付提供のための堅実な条件を確保しなければならないと考えている。最終的には、医療心理教育センターを持ち、安定性、仕事の継続性、専門家の資格の確保、学校機関との協力を確実にするか、または確実にする機関(Enti)に優先権が与えられることになろう。

  いずれにしても、同機関は、教育委員会の社会心理教育サービスがプログラムの優先順位について学校または学校の専門家に勧めることを協定に明記されなければならないセンターはまた、特別学校の状況を監視する必要がある。

 3.2 社会心理教育サービスの全国レベルでの調整とプログラム作成 

 前述のことから、ハンディキャップ者の統合教育問題が複雑であり、したがって、有機的な視点で各学校段階に優先目標の実施を保証するために、国家レベルでのサービスを予見する機関(例えば、とくに技術的課題に対応する中央視学官)、またはサービスの発展を追跡、支援し、他の省庁との継続的な調整を行う教育省の調査計画担当部局、利用可能な財源プログラムが必要となる。いずれにしても、社会精神医学的サービスに関連する資金を割り当てる章の管理会計の統一が必要である。  

嶺井正也の教育情報

日本やイタリア、国際機関の公教育政策に関するデータ、資料などを紹介する。インクルーシブ教育、公立学校選択制、OECDのPISA、教育インターナショナルなどがトピックになる

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