2006年デンマーク教育訪問記


デンマーク・オーデンセ訪問記 
変わりつつあるデンマーク教育;子どもたちの笑顔が続くことを願って 


Ⅰ 2006年8月31日 14時20分 オーデンセ市役所訪問(ヒューン・アムト(県)オーデンセ・コミューン) 

 児童・青年委員会委員長(自由党選出市議)&担当行政官/ 委員長は非常に若い政治家

 /市議会は全部で29名で構成され6つの委員会があり、児童・青年委員会は7名の政治家(5政党)で構成/ 〇歳から十七歳までが対象 市の予算全体の約三分の一を占めている。4000万クローネの中、2500万クローネ/委員長(写真左側)は、小さい頃に学校が面白くなかった経験があり、なんとかデンマークの教育を変える必要があると考え、16歳の頃から政治活動を行ってきた。9年前の選挙で市議に当選し、昨年の三回目の選挙で今の与党が勝ち、自分も当選したので、念願の「児童・青年委員会」の委員長に就任できた。


 同委員会が基本的な市の国民学校(フォルクスコーレ=初等+前期中等教育)についての方針&戦略を定めるが、具体的なことは、自治のある学校で決定。これらの目標が達成されたかどうかを評価することになっている。国民学校は〇学年から10学年までで構成させれるが、義務教育は 全国統一テスト(9年生対象の従来のテストとは違うものの導入についての法律が2006年3月に制定)は必要。教員の間には不満があるだろうが、教員自身の仕事がどう実現されているかを測ることは必要だと考えているので、自分としては賛成の立場である。教育には知識伝達の面と人格形成との両面がある。この両面を統一するためクラスが存在し、9年間変わらないようになっているが、これまでは前者があまり重視されなかったのではないか。教員養成学校(師範学校)でも論議されてはいるが、今後、前者に力を入れるにはテスト導入が必要だと考えている。知識伝達が適切に行われているかを反省する必要があるからだ。また、その社会経済的な影響も調べると、政策に生かすことができるだろう。 PISAの結果から、デンマークの子どもたちは自己決定の力、自立、自己肯定感はトップだが、学力(リテラシー)面では低いことを自覚するようになった。その対策の一環でもある。

  統一テストの結果は、子どもの一人ひとりに対しては開示するし、学校ごとの成績も公表する。その結果、競争が生じるが、それは必ずしも否定されるものではない。その積極的な側面に注目して欲しい。 統一テストの結果は学校ごとの成績として公表する。結果が悪い学校に対しては、委員会が中心となって改善のためのアクション・プラン作成することになる。 また、オーデンセ独自の事業としては、5つの学校の相互交流による相互評価を行うようにするパイロット事業を開始したが、この事業計画づくりには、教員組合も学校評議会も参加した。 

 全国統一テストの方法は、年度ごとに学年と教科を特定して実施する予定。なお、9学年対象の卒業資格試験に関しては、対象科目数を増やす可能性がある。  もともと私立学校選択の自由はあったが、2005年(he 2005 School Choice Act.)からは公立の国民学校(基本的には9年制一貫教育の学校でコムーネ立。障害児学校などは県立だが近いうちにコムーネ立に移行)の選択も可に。おおかたは居住地近くの学校を選ぶが、「二言語使用者」が多い学校をデンマーク語者が避けて別の学校を選択するケースが増えてきている。 (二言語使用者とは、おおむね、非EU諸国の出身の移民を意味し、国籍の有無は問わないようである。たとえばドイツ語やスウェーデン語は母語とする人々に対しては使われない。)。 

 *2024年8月31日の筆者注:以下の資料では就学する国民学校が選べるようになっている。 https://ism.ku.dk/contact/brochures-checklists/brochures/ISM-schooling-in-denmark.pdf なお、こうした学校選択制は教員組合の抵抗により失敗に終わったとの研究もある。 Why School Choice Reforms in Denmark Fail: theblocking power of the teacher union 


  この移民に対する教育は大きな課題になっている。彼らをインテグレートしたりインクルードしたりするにはお互いの違いを正しく理解することが重要。彼らには早いうちにデンマーク語を習得してもらうようにしている。就学前でのデンマーク語教育の実施、デンマーク語を母語としない子どもへのデンマーク語教育担当者の養成、二言語使用の幼児に対してテストをして、その結果が良くない場合には、二言語使用者の多い学校ではなく少ない学校に就学させる措置、外国からの転校生に対する準備教育などをしている。オーデンセでも移民の子どもが85~95%を占める国民学校が2校ある。そこでは、半日学校ではなく終日学校にし、午後(13;20以降)にデンマークの歴史や文化を教えるようにしている。 * デンマークの新学年は8月10日から開始(2006年度) これまでが、たんに二言語使用者というだけで問題があると考えて対応しようとしてきたが、それはおかしいことであった。学校で問題があった場合に学校が申請をし、それに対処するように変わりつつある。 

 デンマークでは労働力が不足しているので、移民の生活向上のチャンスではある。そのためには、公的な機関にもっと採用をしていくべきだと考えている。介護関係では相当に進んでいるが、中には、色の黒い介護士を拒む人もいる。そんな差別的な人には公的支援をしないようにしなければならない。 多くの移民に高等教育に進んで欲しいと考えているが、アラブ系の家庭では、医者か弁護士にならないと学校教育に失敗したと考える風潮があるので啓発をする必要もある。デンマークでは大工は立派な仕事と考えられているのにアラブ系ではそうではない。移民の居住地を決定するときに底辺階層地区になる可能性が高いのは問題。  デンマーク国籍の取得には、7年間の在住実績とデンマーク語の試験の合格、それに労働の場が確保されていることが必要。これまではデンマーク語の合格レベルが高すぎたのでいまは少し下げている。 




Ⅱ 2006年9月1日12時~14時半  学校内会議室にて

  デンマーク教員組合・フュン県内2支部長(フュン県には6支部あり。


 オーデンセコミューンだけで1支部)との会見 まず概略説明あり。特定政党とのつながりはない。支部は全部で72.管理職も教員出身行政官も入っており、組織率はおよそ98%。師範学校の学生も数は少ないが入っている。

 学校内の分会から一人代表を選出し、年一回の大会で県の支部の執行委員を選出し、さらにその中から中央の代議員を選ぶ(これは4年に一回で、代表者数は25名)。創立130年の歴史あり。当初は教育方法や内容を話しあうのが中心であったが、今は労働条件改善の取り組みが加わっている。 

 全国統一テストの導入については、教育大臣との協議を求めたが、協議はなく導入が決定された。このテストは知識の量を測るだけであり、創造性や社会性の育成とは何の関係もない。過去に記憶されたことを調べても無意味である。 法律が決定されるまではいろいろと反対したり注文をつけ、独自に調査研究して『良い学校をもっと良くしよう』とか、自らの専門性向上をめざすための『    』といいう報告書を出したりした。 しかし、いったん決定した以上は従うのが民主主義なので全国統一テスト実施には協力する。 

 組合として、最近はカウンセリングを開始した。押し寄せる改革に波に対応できない教員が増加し悩んでいるからだ。  夏休みも長い(ただし、今年から1週間短くなり四週間)し、勤務時間も短いという批判があるが、仕事の内容が大変なのでなかなか教員志望者が増えないという現実もある。

嶺井正也の教育情報

日本やイタリア、国際機関の公教育政策に関するデータ、資料などを紹介する。インクルーシブ教育、公立学校選択制、OECDのPISA、教育インターナショナルなどがトピックになる

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